あらすじ
三十歳の白峰結衣は、残業帰りの横断歩道で意識を失った。目を覚ましたとき、彼女は十六歳の少女の体で、見知らぬ国の廃修道院の床に転がっていた。
その国には聖女がいる。神託を受け、王家に仕え、民に祝福を与える存在。結衣は聖女候補として神殿に上げられ、そして一年で捨てられた。理由は簡単だった。もっと都合のいい娘が見つかったからだ。
誰も彼女に嘘をつかなかった。ただ、彼女に都合よく説明しただけだ。そして人は、都合のいい説明のほうを事実として憶える。
廃修道院で朽ちかけていた結衣は、そこで契約を結ぶ。声を代価として、他人の本当を見とどける力。相手が何を隠しているのか、口にした言葉のどこが嘘なのかが、見えるようになる。かわりに結衣は一言も喋れなくなる。しかも契約にはもう一段の代償がついていた。自分のためだけに言葉を使う日が来るまで、彼女は自分の本音すら声にできない。
声を失った少女を拾ったのは、辺境の領主カイエン・ヴァルデだった。灰色の目をした無愛想な男は、結衣の力を疑いもせず、便利がりもしなかった。彼女がどれだけ人の裏を見通せても、この男の内側にだけは何も浮かばない。裏がないからだ。
辺境で薔薇を植え、使用人たちと働き、結衣は少しずつ人間に戻っていく。だが王都は彼女を忘れていなかった。立てられた偽の聖女ブリュンヒルデ、その後ろで糸を引く公爵家の嫡子レンハルト・グラウフェルト。彼らにとって結衣は、生きていられては困る証拠でしかない。
神殿の再審問。全ての嘘が並べられた広間で、結衣はついに沈黙を破る。彼女が最初に発した言葉は、祈りでも告発でもなかった。ただの、たった一言のわがままだった。
全十六章+プロローグ・終章、約二万三千字。
縦書きPDF(A5判・全73ページ)
その国には聖女がいる。神託を受け、王家に仕え、民に祝福を与える存在。結衣は聖女候補として神殿に上げられ、そして一年で捨てられた。理由は簡単だった。もっと都合のいい娘が見つかったからだ。
誰も彼女に嘘をつかなかった。ただ、彼女に都合よく説明しただけだ。そして人は、都合のいい説明のほうを事実として憶える。
廃修道院で朽ちかけていた結衣は、そこで契約を結ぶ。声を代価として、他人の本当を見とどける力。相手が何を隠しているのか、口にした言葉のどこが嘘なのかが、見えるようになる。かわりに結衣は一言も喋れなくなる。しかも契約にはもう一段の代償がついていた。自分のためだけに言葉を使う日が来るまで、彼女は自分の本音すら声にできない。
声を失った少女を拾ったのは、辺境の領主カイエン・ヴァルデだった。灰色の目をした無愛想な男は、結衣の力を疑いもせず、便利がりもしなかった。彼女がどれだけ人の裏を見通せても、この男の内側にだけは何も浮かばない。裏がないからだ。
辺境で薔薇を植え、使用人たちと働き、結衣は少しずつ人間に戻っていく。だが王都は彼女を忘れていなかった。立てられた偽の聖女ブリュンヒルデ、その後ろで糸を引く公爵家の嫡子レンハルト・グラウフェルト。彼らにとって結衣は、生きていられては困る証拠でしかない。
神殿の再審問。全ての嘘が並べられた広間で、結衣はついに沈黙を破る。彼女が最初に発した言葉は、祈りでも告発でもなかった。ただの、たった一言のわがままだった。
全十六章+プロローグ・終章、約二万三千字。
縦書きPDF(A5判・全73ページ)



