完全食さんのレビュー一覧

keyブランドのロープライス作品は色々とありますが、本作はかなり短い方と言えるかもしれません。実時間でだいたい3,4時間ほどで読了しました。「短すぎ!」と叫びそうになるほどでしたが、これは決してクオリティが低かったというわけではなく「もっと読ませてくれ」という気持ちのあらわれであったように思います。

LOOPERSの骨子は非常にシンプル。8月1日がループし続ける世界に囚われた主人公とそこで出会った仲間たちとの友情物語、恋愛要素もちょっとあり。既視感があり、後半明かされる世界のなりたちは『One』や『リトルバスターズ!』を想起させるような往年のkeyっぽさを意識しているようにも思われます。
じゃあやらなくていいかと言えば、そんなことは全くない。本作のかけがえのなさは、そのありきたりな要素で読者の世界理解のストレスを軽減させたうえでの、日常会話にあります。とにかくどのキャラもいいヤツで、読んでいて気持ちの良いハツラツとした会話が多い。望月けい氏が原画を担当しておりついダークな感じをイメージしてしまいますが、中身は明るい。イメージがガラっと変わったこともあり、この会話の良さは推したいところです。ヒロインとのラブコメも大事ですが、LOOPERSはとにかくこの会話をどんどんやってほしい、そんなことを思わされる作品です。

近年、ロープライスでサクッと遊べる短編を精力的にリリースするKey。内容もこれまでのkeyのイメージだった「泣き」一辺倒でなく、テキストの小気味の良さやシステム周りの洗練などに力を入れている印象があります。
そして本作LUNARiAも、例にもれず短いながらも読ませる内容、目を引く演出やビジュアルが揃っていました。

シナリオ面に関しては読みやすく起伏もあり、近未来という設定を活かしたダイナミックなものと感じました。プレイ時間はおよそ5時間でしたが、体感それよりも長く感じる起承転結があるように思います。

本作はロゴ周りの演出がやや凝っており、ここは以前のkeyブランド作品とは違う新しさを感じました。レースシーンでのロゴ表示のアニメーションなどは臨場感を生み出すことに一役買っています。

Synthesizer V AIのライブラリでも評判が特に高い本ライブラリ。噂に釣られて買ってみたところ、想像以上のクオリティでした。ガツガツした縦ノリサウンドには不向きですが、おとなしめなクラブミュージックとも相性がよくまさに求めていた歌声という印象。

なんと言っても生っぽい。美味しい倍音を持っているということもあるし、AIが賢いと言うのもあるでしょう。特に、少し低い音階で歌わせると、その真価が際立ちます。美味しい倍音を活かして他のライブラリをメインで歌わせながら花隈をうっすら混ぜたりするのもよさそうです。

ASMRは素人でよくわからないのですが、少なくともドラマCDとして聴いても楽しむことができました。

本作はある日のヒマリとのふれ合いを描いています。メモロビを意識しつつもメモロビとはまた違った日の出来事のようですが、しかしとにかく自然。公式が出しているんだから当たり前と言えば当たり前ですが、ヒマリが言いそうなことをヒマリの声で言っている。ASMRなので定位も変わる。遠くで話したり近くで囁いたり。右の耳からだったり左の耳から聴こえたり。ヒマリと会話しているような気分をいっときでもあじわうことができました。

聴き心地に関しては、声だけでなく環境音もいい味をだしていると感じました。配信時の音質がハイレゾになるともっと気持ちよく味わえるかもしれません。

なんだこれは。読み終えたときの印象はまさにそんな感じでした。7時間のテキストでこの満足度、ありえないだろという意味でそう思ってしまった。それほどまでに本作の密度は凄まじい。田中ロミオというと多作ゆえに毎回シナリオを上手く運べているとは限らない作家、と言う印象だったのですが、本作はホームラン。ペンタキルレベル。Keyと言えばフルプライス、と思わずにぜひやってほしい。

いろいろ凄かったというのはそうなのですが、一番すごかったのはシナリオ運びとそれを助けたテキスト。SFという軸をぶらさず、そこに「成長譚」を違和感なく埋め込むことに成功している。そこを「泣き」を入れることでさらに効果的にし、Keyのブランドイメージを崩しきったりもしていない。
今作のヒロインは、序盤中盤は非常にイライラさせてきます。このポストアポカリプス世界において一人甘えたことを言っており、それを根本的に反省せずに似たようなことを繰り返すから。しかし、この記憶が終盤で反転します。これまでイライラしていたのがあら不思議、かけがえのない思い出に変換される。ロープライスのADVでここまで鮮やかに、遡行的に訂正されたことははじめてです。

館ものミステリーという腹づもりで購入したのですが、まずはその点おもしろかった。そのうえで、謎解き以降の展開を組み込み、ドラマとしての盛り上がりを、ミステリー好き以外も楽しむことができるような作りになっており、なるほどなと思いました。

ちなみに、本作の「癖」はそこそこ人を選ぶように思われます。痩せ・不潔・陰キャと王道とは言い難い性癖が組み込まれたキャラクターが配置されています。個人的にここが合わなかったので☆4としたのですが、これはマッチングの問題で、好きな人にとっては☆5でも足りないくらいのものがあると思われます

同人ノベルゲーはあまり買わないのですが、今後は認識を改めようと思います。少なくともビジュアルとか演出に関しては、今後みだりに不安がったりするのをやめようと。そのぐらいのクオリティでの驚きが、本作にはありました。

舞台は沖縄と明言されています。この点、他の夏ゲーと言われるノベルゲーとは異なった趣きを生み出すことに一役も二役も買っているように思いました。流石に実在の島ではないようですが、ともかく沖縄と明示され、それに合わせた描写も盛り込まれており、没入感を高めていました。

個別の要素をほどくと、シナリオは結構シンプルでした。「ザ・セカイ系」とでも言うべき、「セカイと女の子、どっち取るの!?」という選択を直に問いにきています。この単純さから言うと、本作の魅力は中盤あたりの個別キャラクターの掘り下げにあるのかもしれません。

スマホの読み上げ機能で会話する女の子。二次元キャラとしては強烈で興味をそそりますが、果たしてその子は「マトモ」と言えるのか。16巻になっても春真っ盛りのギャグ世界線であっても、女の子とのラブコメを描くからにはいつか取り組まなければならなかったでしょう。それをやってくれた。

おそらく吃音である静ちゃんは、漫画の世界では受け入れられやすい存在でした。というのも、漫画のセリフは口の動きや音声ではなく、ふきだしと連動しているから。どのキャラも文字で話さざるを得ないという制約の中で、彼女の「障害」は障害足りえません。だから読者にとっては彼女の吃音はライトな萌え要素として受け入れられる。
しかし、ひとたび作品の中に入り込むとそういうわけにはいかない。恋太郎ファミリーの中では理解してもらっているわけですが、そこ以外ではどうなっているか。クラスに友達はいるのか。どうでしょう、そういうシーンに見おぼえありますか?
そんな彼女もいつかは社会と関わらざるをえません。もちろん読者からすれば彼女が彼女として恋太郎たちとずっと一緒にいることは疑うまでもないことですが、静ママからすればそんなこと知る由もない。しかもほとんど一人で子育てをしていたとなれば、心細く、娘の将来を案じて干渉してしまうのも当然でしょう。あまり深くは触れなかったものの、そこを描写していたのも良い。
ここに凪乃がアプローチ、恋太郎が引き継ぐという流れは友情と愛情を感じさせました。いくらギャグ漫画とはいえ、娘の彼氏がちょっとかっこいいこと言って、娘が意見を述べた程度で実存的な不安は解消されません。しかし、それでよかった。100カノはヒロインの「個性」を殺さず、丸ごと包摂する世界観なわけですが、そこに付き纏うネガティブな要素も取り逃がさない。静ちゃんのエピソードはそれを最も如実に表している素晴らしいものでした。

100カノはオールウェイズ美少女の新しい可能性を見せてくれる。記号的表現の組み換えから現れた新彼女はとてつもない魅力を持っていました。

お嬢様+ギザ歯+グロ好き。なんとなく育ちの悪さと荒々しさを感じるギザ歯とスプラッターなもの好き。どちらもお嬢様属性との食い合わせが悪そうな要素が奇跡のマリアージュ。お嬢様属性が主張しすぎなかったところも相まり、おしとやかなのに狂った強烈なヒロインが誕生しています。「いひひひひ」って笑うお嬢様は生まれて初めて見ました、多分一生忘れません。

100カノ13巻は比較的落ち着いた巻、と言えるかもしれません。彼女の増加は一人。全彼女ワチャワチャ回が多めなものの、ギャグの勢いは控えめでラブコメをやっている印象。ファミリー間の関係性の構築も意識されており妄想もはかどる一冊。

新彼女は普通め、と言ったところなのですが、これが普通になっているのはどうかしているのかもしれない。とは言え異常者の集まりである恋太郎ファミリーにおいてテンプレートの組み合わせだけでは中々主張できないという側面は否定できないため、今後どうキャラ付けがされていくのか目が離せません。