まず、当方は『ブルーアーカイブ』について何ら知り得ないことを断らせて頂きます。
・作品概観
本作は聴者が先生、演者が生徒という立場で展開される作品です。
ソーシャルゲームからの派生作品ですが、作中に疑問を生ずるような引用はなく、つつがなく視聴ができます。
突発的な奇声が発される場面があるので、まずは睡眠導入用ではなく、鑑賞用に聴かれることをお勧めします。
・私感
良い作品は鼓膜から五感へ、さらには深層心理にまで感覚を与えてくれるものです。
本作品も良作の例に違わず、その特性を持ち合わせています。
雨音にしほたれる自分の髪、額に張り付くそれを払い、私は戸を叩くーー。
そんな情景から始まる本作の主人公は、外の世界に少し倦厭的で、しかし私には好意を抱いてくれている、古書を愛する女の子です。
少しおどおどした人付き合いが苦手そうな低い声は、外耳道を浸透して鼓膜を介さず聴神経に届くかのような響きであり、とても癒されます。
時折、動揺して上擦った声を出すのも可愛らしい。この内気な少女の性格がよく表現されています。
交わされる会話は、文学少女らしく機知が散りばめられており、聴いていてキャラクターの質量が感じられました。
途中、私は少女が行う古書修復を手伝うのですが、それが本作の最高のポイントです。
作業を進めながら少女が話す、古書修復についてのあれこれ。
私はその技術性の高い話に、いまいち要領を得ないでしょう。
しかしながら、彼女が古書を心から好きだということはひしひしと伝わってきて、彼女の芯に触れられたような気持ちになるのです。
好きな人が好きなものについて話しているところを見るのが好き、という感じでしょうか。
この場面において少女の解像度は一気に引き上げられ、まさに囁きすらも届く位置に、彼女が近づいてきてくれるのです。
オーク材と紙の匂い漂う古書館にて古関ウイと過ごす一時、必ずや至高のものとなるに違いありません。